他の人の気持ちは想像しきれるものではない

台風19号、大変な災害でした。
次々に増えていく被害の状況に、胸が痛みます。

 私の住んでいる足立区は全域に避難勧告がでて、全ての小中学校が避難所となりました。

 自分が住んでいる地域が避難勧告対象になるということは、初めての経験でした。

 避難の踏ん切り

防災無線で避難勧告が出されたことを知り、どうすべきかすごく考えました。

結論として、荒川が危険な状態になる、あるいは自分の住処がいられなくなるような状態になったら避難しようと決め、自宅待機することにしました。

いつでも逃げられるように貴重品、少しの衣服、食糧、手回し式のラジオをリュックに詰めて、防災無線に聞き耳を立てていたのです。荒川が決壊または氾濫水位を越えたら危険なので、ツイッターやテレビで、荒川の水位を確認し続けました。なんとか避難するまでの事態には至りませんでした。

身にしみて分かった

かつて、災害が他人事であったときはテレビをみながら「避難勧告がでたらすぐに避難すればいいのに」と思っていました。少しでも危険があるなら早めに避難して安全を確保すればいいのに、なぜ自宅にとどまろうとするのだろうか、と。

しかし、実際に自分が避難勧告を受けてみて思ったのは、自分の居場所から離れたくないということでした。客観的にみれば不合理なのですが、不安だからこそいつもの場所に居つづけたい気持ちが強くありました。

まして、ご高齢だったりして移動が大変なご家族がいる家庭では、避難に二の足を踏むのもうなづけます。自宅で安心していたい心理的ブレーキのほかに移動困難という物理的ブレーキが重なるのであれば、できるだけ移動したくないと思うのは自然なことでしょう。

法律事務という仕事柄、刑事事件の被害者の方と接することがあります。

被害の痛みにできるだけ寄り添うよう、被害者の方には丁寧に接しているつもりでした。

数年前、私自身がひったくりに遭ったことがありました。犯人は後ろからバイクで近づいてきて肩掛けカバンをひったくろうとしたのですが、カバンをつかめず私の肩を殴るような形で去って行きました。

カバンは無事でしたが、同様の犯行を多数行っているだろうと思い、情報提供のつもりで警察に被害届をだしました。はじめて私は刑事事件の被害者になったのです。

突然の悪夢でした。急に後ろからバイクで近づいてきて私の右肩を殴ったのです。

刑事事件の被害者になるということは、突然、想像もしていなかったような怖いめに遭うことなのでした。私の些細と言ってもいいような被害でもこんなに怖かったのです。

また、こんな恐怖がおそってくる可能性があると思うと、こわくてたまりません。

もっと深刻な被害にあった人はどんなに恐怖を感じたのか想像もつきません。

簡単に、他人の痛みに寄り添うなんて思い上がりだった、とこの経験から感じました。

他人の痛みは想像しきれるものではないのです。被害者の方にできることは、せめて安心してお話していただけるようやわらかく接することくらいです。

さて、今日も書面をつくりましょうか。