命をあずかる=事務管理(報酬つき)

 猫と一緒に暮らすことは、幸せな生活の一つです。完璧な美しさだけでなく愛くるしいしぐさ、時に見せるトンマな行動でメロメロになります。外でイやなことがあっても、「家に帰って猫と遊ぼう」と思えば耐えられます。

 ペットを飼うことは、命を預かるということです。ペットの生殺与奪を握るのですから、かわいい一点張りでは済まない重い責任が生まれます。

 この重い責任を法律的にどう定義するか。私は民法でいうところの「事務管理」だと考えています。

事務管理とはなにか
 民法の事務管理とは、頼まれもしないのに他人の世話を焼くことです。委任者と受任者の合意がある委任と違い、相手の承諾を必要としません。

事務管理では次のような義務があります。

管理者の通知義務
 管理者は、事務管理を始めたことを遅滞なく本人に通知しなければならない。
        👇 つまり
 猫を拾ったら、まず「私があなたの買主になりました。死ぬまでお世話させていただきます」と伝える。

報告義務
 管理者は、本人の請求があるときは、いつでも事務管理の状況を報告する。
        👇 つまり
「ご飯はあとでね」
「3種混合ワクチンは必要だから動物病院に行くの!嫌がってもダメ!」
きちんと目を見て伝えること。

善管注意義務
 社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意、つまり自分のものより注意をもって管理する義務。
        👇 つまり
 朝晩の食欲、排せつ物の状態、しぐさ、行動を常に注意深く見守ること。
 自分の食費はケチっても猫にはプレミアムフードやチュールを欠かさず、フカフカのクッションを用意すること(でも猫は使ってくれない…)。

 民法の事務管理は無償です。頼まれもせず他人の世話を焼き、重たい善管注意義務がのしかかっても見返りはないのです。考えれば損な話です。

 しかし、猫の事務管理では莫大な見返りが用意されています。猫からの曇りのないまっすぐな愛情も、抱き上げたとき感じるぬくもりも、身を任せてくれる信頼も、愛くるしいしぐさも、やらかしも、すべて飼い主のものです。しかもモフり放題。形はないけれど消えることのない幸せをもらえるのです。

 善管注意義務は重いものですが、受け取る報酬はプライスレスの事務管理はたのしいばかりです。