消費貸借も使用貸借も寄託も諾成契約でしょうよ

 消費貸借は要物契約です。同じ物を返還することを約して相手方から金銭その他の物を受け取るという契約です。条文も変更ありません。だがしかし587条の2という条文が増えました。書面による消費貸借は諾成契約となります。

民法第587条(消費貸借)
 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還することを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

民法第587条の2(書面でする消費貸借等)
 前条の規定にかかわらず、書面でする消費貸借は、当事者の一方が金銭その他を引き渡すことを約し、相手方がその受け取ったものと種類、品質及び数量の同じ物をもって返還することを約することによって、その効力を生ずる。

 物を直接受け渡すときは要物契約、書面で契約を交わしたときは諾成契約、となります。条文を足しこむことで、実際の場面に即した使い分けがされるようになりました。

使用貸借も寄託の要物契約だったが
 使用貸借の593条は条文の文言自体を変更して諾成契約にしています。

 旧条文 …返還することを約して…物を受け取ることによって…
        ⇩
 新条文 …物を引き渡すことを約し、…返還することを約して…

 寄託の657条も同じような改正で、諾成契約になりました。

  旧条文 …保管をすることを約してある物を受け取ることによって…
        ⇩
  新条文 …ある物を保管することを相手方に委託し、相手方がこれを承諾する…

 確かに、使用貸借にしても寄託契約にしても、いきなり物を渡すという場面は現実的には考えにくいです。渡す前に話し合って合意するでしょう。
 話し合って合意したうえで物を渡すのであれば、要物契約ではなくて諾成契約です。

 ただ、物を渡す諾成契約であると、契約から物を渡すまでにタイムラグが生じます。法改正では物の引き渡しまでの間の契約解除が認められています。

消費貸借
 借主は、貸主から金銭その他の者を受け取るまで契約の解除ができる(587条の2)。

使用貸借
 貸主は、買主が借用物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。ただし、書面による使用貸借についてはこの限りではない(593条の2)。

寄託
 寄託者は受寄者が物を受け取るまで、契約の解除ができる。無報酬の受寄者も寄託物を受け取るまでに契約は解除できるが、書面による寄託の場合は解除不可(657条の2)。

 物を引渡すことで発効する要物契約の性格をとどめています。

債務を消滅させる旨の契約、が入るだけで条文の意味が通った
 少し話がずれますが、代物弁済で「代物弁済契約が締結されれば弁済の代替物の権利は移転するが、債務が消滅するのは実際に代替物が引き渡されたとき」という条文を読んだだけでは出てこない結論がありました。

 これが、改正条文では「債務を消滅させる旨の契約をした場合」と明記されたことで、「給付は弁済と同一の効力を有する」という条文が、契約からの交付という2ステップがはっきりしました。これなから私にもわかります。

痛し痒し 
 せっかく覚えた法律が変わるのはムカつきますが、言葉遣いだけでなく、意味不明部分が解消されるのはありがたいです。覚えなおすのは面倒くさいですけど。痛し痒し。