法律で理論武装して猫を守る
私はかつてメインクーンという血統種の猫を飼っていました。毛足の長いもふもふです。買えば数万円する高級な猫ですが、私は動物愛護団体に保護されていたのをもらい受けました。なんでも20頭を超えるメインクーンが飼育放棄されていたところを保護したのだそうです。
そのなかで、ひときわ目をギラつかせて執拗に頭をこすりつけてきた(甘えているつもり)猫を引き取りました。
讃良(さらら)と名付けた猫と楽しい生活を始めたところに、猫仲間から「元の飼主が動物愛護団体に猫たちを返せと要求している」という情報が入りました。大変です。
詳しい情報は確認しないまま、私は猫をギュッと抱きしめ、守り抜く決意をしました。だってもう名前もつけてご飯も食べさせたのだからウチの子です。誰にも渡しはしません。
なけなしの法律知識で戦う決意を固めました。
動物の占有による権利の取得(民法第195条)
この条文によると、家畜以外の他人の動物を事情を知らないまま譲り受けた場合、元の買主が1か月以内に返せと請求してこなければ、返さなくてよくなります。
1か月、びくびくして待ちましたが元の買主から私宛の請求は来ませんでした。動物愛護団体が頑張ってくれたようです。もう大丈夫です。
もし、元の飼主から猫を返せと言い出したら、即時取得の主張をです。
即時取得(民法第192条)
この条文によると、所有権のない者から事情を知らずに(例えば盗んだ物だった)物を手に入れた人は自分のものにできる、という規定です。
私は動物愛護団体と譲渡契約書を交わして猫を引き取りました。動物保護団体が元の飼主から猫を引き取ることについて合意していたかどうかなんて、私は知りません。だから、私は猫を即時取得した、と主張できます。この主張をするために、私はあえて猫がどういう経緯で保護されたのかは詳しく聞かないようにしていたのです。即時取得の主張ができるのは、あくまで善意の第三者であることが条件ですから。
もし、即時取得を認められないという場合には、かくなる上は留置権の主張です。
留置権(民法第295条)
留置権は使った経費を払ってくれないなら物は返さない、という主張です。猫を引き取って1か月の間、私はご飯を食べさせ不妊手術と三種混合ワクチンを受けさせました。大体6,000円くらいでしょうか。6,000円だと弱いので、一緒に猫を引き取った20人以上の飼主と協力すれば6,000円×20=120,000円。「12万円払わないと猫は返さないぞ」と主張して元の飼主と徹底抗戦です。
結局、元の飼主から私が猫を返せと言われることはなく、8年間猫にまみれた幸せが続きました。ネグレクトをしやがった元の飼主から猫を守ることはできましたけれど、病気からは猫を守ることができませんでした。
よく死んだペットに「生まれ変わって帰ってきてほしい」と願う飼主さんの話を聞きますが私はそうは思いません。死なれたところで私と猫の絆は切れはしないし、あきらめたりはしません。ただ、会えないだけです。いつまでもうちの子です。